
顕微授精とは?体外受精のふりかけ法との違いやメリット・リスク・流れを解説
公開日:2024.06.28更新日:2024.12.24
体外受精には「顕微授精」と「ふりかけ法」の2つがあります。それぞれの受精方法は、受精のさせ方や対象となる人が違います。ふりかけ法で受精が成功しなかった場合でも、顕微授精を取り入れることで受精率を上げられる可能性があるのです。この記事では、ふりかけ法と比較しながら、顕微授精の流れやメリット・デメリットを詳しく解説します。

顕微授精とは卵子に直接精子を注入する受精方法
顕微授精は、受精の最初のステップである卵子への精子の取り込みを助ける手段の一つです。形態が正常で運動性などが良好な精子を一つ選び、人工的に卵子に注入します。顕微授精にはいくつか方法がありますが、現在では卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection:ICSI)が一般的です。ふりかけ法では受精が成立しなかったり、精子の数が少なく妊娠成立が見込めなかったりした場合に、顕微授精は良い選択肢になります。
顕微授精をおすすめする方
顕微授精の対象となるのは、主に重症男性不妊症の場合や、ふりかけ法で受精できず受精障害が予想される場合です。重症男性不妊症とは、重症乏精子症、精子無力症、精子奇形症、不動精子症をさします。調整後精子の運動精子濃度が2,000万/mlを下回る方や、精子の正常形態率が低い場合には、ふりかけ法での受精は難しいため、顕微授精が望ましいです。他には、精巣から直接精子を回収する手術(TESE:精巣内精子採取術)を使って精子を採取した場合や、男性に抗精子抗体がある場合にも顕微授精を選択します。
ふりかけ法と顕微授精の違いは受精のさせ方
ふりかけ法と顕微授精の大きな違いは受精方法です。ふりかけ法は精子自身が持つ力によって自然に近い形で受精を起こすのに対して、顕微授精では人工的に受精させます。
ふりかけ法とはシャーレの中で受精を待つ方法
ふりかけ法は、卵子の入ったシャーレに、形態・運動性が良好な精子をふりかけて受精するのを待つ方法です。精子が自力で卵子に入っていくため、より自然に近い受精となります。卵子を傷つけないため、卵子へのストレスが少ない受精方法といえます。ただし、卵子と精子どちらか片方に受精障害がある場合には、受精率の低下がみられるので注意が必要です。
顕微授精は、胚培養士が選んだ一つの精子を細いガラス管の先に入れて、卵子に直接注入する方法をとります。顕微授精は人工的な技術を使って受精させるのが特徴です。注入する精子は形態や運動性の良いものを選べるため、ふりかけ法よりも高い受精率が期待できます。
顕微授精の3つのメリット
顕微授精は、ふりかけ法では受精が難しいご夫婦におすすめする方法です。採取できた精子の中から胚培養士が良好な精子を選択するので、特に男性側に不妊の原因がある場合は妊娠の可能性を高められます。ここでは顕微授精の3つのメリットを紹介します。
受精率が高い
顕微授精は、胚培養士が顕微鏡を使って確認しながら、卵子の細胞質の中に精子を確実に注入する方法です。精子自身の卵子に突入していく力に頼らない受精方法のため、顕微授精の受精率は約80%と高い傾向があります。ふりかけ法と比較して胚移植後の妊娠率に差はありませんが、受精率に関しては顕微授精の方が優れているといわれています。妊娠が成立しにくい原因が受精障害の場合には、顕微授精は良い適応です。
精子が1つでもいれば受精可能
ふりかけ法の場合には卵子1個に対して10万個の精子が必要です。しかし、顕微授精なら生きた精子が一つでもいれば受精につなげられます。現代の技術では、精液中に全く精子がみとめられない無精子症の方でも、精巣から精子を採取する手術をして顕微授精を行うことが可能となりました。
形態・運動性の良い精子の選別ができる
ふりかけ法の場合には、一定量の精子を卵子の周りに泳がせるため、どの精子が受精するか選ぶことはできません。受精に用いる精子は前処理で運動性の良い精子を集めていますが、中には運動性が良くても形態的に異常な精子が含まれることもあります。形態に異常がある精子は受精しないリスクがあります。顕微授精の場合は、胚培養士が精子を一つ一つ観察し、形態や運動性の良い精子を選別できるので、受精の確率を高められるのがメリットです。
顕微授精のリスクは卵子へのストレスがかかること
顕微授精では、精子を注入する際に卵子に針を刺します。卵細胞に針が入ることで、卵子の細胞膜には大きな負荷がかかるのです。卵子の状態によっては、ストレスによって卵の変性が起こる可能性があります。顕微授精は受精率は高いものの、受精卵の発育や胚盤胞到達率、良好胚の獲得率はふりかけ法より低いといわれています。ふりかけ法は、顕微授精と比べて卵子へのストレスが少ない受精方法のため、胚盤胞到達率が高いです。ふりかけ法、顕微授精のメリット・デメリットをよく理解して治療に臨みましょう。
体外受精のリスクについて詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
→体外受精の7つのリスクを解説!体外受精による先天的な障害の可能性にも言及
顕微授精の流れ
顕微授精は卵巣刺激・採卵・胚培養・胚移植のステップはふりかけ法と同じですが、精子と卵子を出会わせる受精の段階が異なります。ここでは、実際の顕微授精の流れを簡単に解説します。
STEP1:採卵する
卵巣刺激により卵胞を育て、排卵直前で卵胞から卵子を含む卵胞液を取り出します。採卵は、経膣の超音波で確認しながら卵巣に針を刺して行います。局所麻酔または静脈麻酔を使用するクリニックが多いです。卵子が採取できたら、培養液に入れて顕微授精まで培養します。
STEP2:回収した精子を選別する
約3日間の禁欲期間のあとに精液を採取します。洗浄処理と良好運動精子を分離した上で、形態が正常で運動性が良好な精子を選びます。このときに精子の不動化処理をしますが、この操作は精子から卵活性化物質を出やすくするために必要な作業です。
STEP3:卵子に精子を注入する
選別した精子をマイクロピペットと呼ばれる細いガラス管を使って吸い取ります。ガラスピペットで卵子の細胞膜を貫通させ、卵細胞質の中に精子を注入します。注入時は、卵子の紡錘体*を傷つけないように注意が必要です。卵子の第一極体と呼ばれる部分を12時の方向に固定し、3時の方向から針を注入します。
*紡錘体・・・染色体の分裂に重要な役割を果たす構造物
STEP4:胚を培養する
受精卵が発育し2細胞期になると胚と呼ばれるようになり、2〜6日間培養を行います。胚を最適な環境で培養するためには、培養液だけでなく、温度やpHにも気を配ることが必要です。培養が順調に進むと、胚は細胞が4~8分割した初期胚から胚盤胞まで成長を続けます。胚の状況を確認しながら、初期胚または胚盤胞を胚移植に用います。
STEP5:胚移植を行う
胚を子宮内に戻すことを胚移植といいます。胚移植は、採卵した周期の新鮮胚をそのまま使用する場合と、初期胚または胚盤胞の段階で凍結した胚を、別の周期で溶かして使用する場合があります。多胎妊娠を防ぐために、移植に使用する胚の個数は原則的には1個です。
顕微授精とふりかけ法を組み合わせた受精方法
ふりかけ法と顕微授精の両方を同時に行う場合や、ふりかけ法でうまく受精しなかったときに続けて顕微授精を行う場合があります。顕微授精とふりかけ法を組み合わせた受精方法は、一つも受精卵が得られない事態を避けるために効果的な方法です。
両方で受精を試みるスプリット
ふりかけ法と顕微授精を組み合わせて行うのがスプリットです。精液所見が不良であっても、ふりかけ法で受精の可能性がある場合に行います。受精率の高い顕微授精を併用することで受精卵がゼロというリスクを下げられます。ただし、採卵した卵子をふりかけ法と顕微授精に分けて使うため、採卵数が多くないと実施できません。
ふりかけ法を試した後に顕微授精を行うレスキューICSI
ふりかけ法で受精しなかった卵子に対し、当日中に顕微授精を追加で行う方法がレスキューICSIです。ふりかけ法を開始して4~6時間後に観察しても受精の兆候がみられない場合、卵子を取り出して顕微授精を行います。この方法でレスキューすれば、受精やその後の胚発生などの成績は、通常の顕微授精と変わらないという報告があります。
ふりかけ法では、精液所見が良好でも受精しない可能性もあります。受精が全く起きず、次のステップの胚移植に進めないという事態を防ぐために、レスキューICSIは有用な選択肢です。ただし、受精した卵子に顕微授精を実施してしまい多精子受精卵ができる可能性があるので、リスクもあわせて知っておきましょう。

不妊治療は婦人科に相談しよう
ふりかけ法と顕微授精は、それぞれ対象となる人やメリット・デメリットが異なります。卵子や精子の状態、これまでの治療歴などをもとに、ご夫婦の意向に合わせて治療方針を決めていきます。どの治療が向いているのか迷ったときは、まずは病院に相談しましょう。不妊治療で行き詰まっている方は、ご夫婦だけで抱え込まず、不妊治療に詳しい婦人科の医師にいつでもご相談ください。