
無精子症は見た目でわかる?無精子症の特徴や治療法を医師が徹底解説
公開日:2024.10.31更新日:2024.12.24
無精子症とお聞きして「もしかして自分も…」と不安を抱えている男性も多いのではないでしょうか。男性の約100人に1人が、精液中に精子が全く見つからない「無精子症」であると言われています。無精子症は自覚症状がほとんどないため、いざ検査を受けてみて初めて、現実を突きつけられるケースも少なくありません。
この記事では、無精子症の原因や症状、検査方法、治療法まで、医師が詳しく解説していきます。 ご自身の状況と比較しながら、正しい知識を身に付けましょう。
神奈川県相模原市 淵野辺駅から徒歩2分にあるソフィアレディスクリニックは、男性不妊外来で無精子症の患者さんも診察しているクリニックです。精巣内精子採取術(TESE)などによる精子採無精子症も行います。専門医が相談に乗りますのでお気軽に相談にいらしてください。
無精子症ってどんな病気?原因や症状、検査方法を解説
無精子症とは、「精液の中に精子が全く見つからない状態」のことを指します。通常は、無数の精子が元気に泳ぎ回っているはずの視野に、精子が1つも見当たらないのです。近年、男性不妊の原因として、無精子症が多くの割合を占め、男性の約100人に1人が無精子症だと言われています。
以下では、無精子症の定義や原因について解説しています。
無精子症の定義:精液中に精子が全く確認できない状態
「精液の中に精子が全く確認できない状態」と診断を下すまでには、実は慎重なステップが必要です。1回の検査だけで、すぐに無精子症と決めつけることはできません。体調や環境、あるいは前回の射精からの期間などによって、精子の状態は大きく変化するからです。
サウナや熱いお風呂に頻繁に入ったり、デスクワークなどで長時間座りっぱなしの生活を送っていると、精巣の温度が上昇し、精子を作る働きが低下してしまうこともあります。
精子の状態は、さまざまな要因に影響を受けます。そのため、複数回(通常は2回以上)の検査を行い、それでも精子が確認できない場合に初めて、「無精子症」と診断されるのです。
無精子症の原因:閉塞性無精子症と非閉塞性無精子症
無精子症の原因は、大きく2つに分けられます。
1つ目は「閉塞性無精子症」です。精巣で精子が正常に作られているにもかかわらず、精子の通り道である精管が詰まっているために、精液中に精子が出てくることができない状態をいいます。閉塞性無精子症の原因としては、過去の手術や炎症などが考えられます。例えば、子供の頃に鼠径ヘルニアの手術を受けていたり、過去にクラミジアなどの性感染症にかかったことがある場合、精路が狭くなったり、塞がってしまうことがあります。
2つ目は「非閉塞性無精子症」です。精巣で作られる精子の数が極端に少なかったり、全く作られていなかったりする状態をいいます。非閉塞性無精子症の原因は、ホルモン異常や染色体異常、先天的な精巣の形成不全などです。さらに、日常生活におけるストレスや喫煙、過度な飲酒、偏った食生活なども、精子の産生に悪影響を及ぼす可能性があります。
無精子症の症状:自覚症状がない場合が多い
無精子症は、自覚症状がない場合がほとんどです。そのため、健康診断や不妊治療の検査で初めて無精子症が見つかるというケースが多く、早期発見が難しい病気と言えるでしょう。
精液の量が少ない、精液が濁っている、勃起しにくい、性欲減退などの症状が現れる場合もありますが、これらの症状は、無精子症以外にも、さまざまな病気が原因で起こる可能性があります。例えば、前立腺肥大症や糖尿病などの病気でも、精液の量や性機能に影響が出ることがあります。
「もしかして無精子症かもしれない…」と不安を抱え込まずに、まずは専門医に相談してみることが大切です。
無精子症の検査方法:精液検査、ホルモン検査、画像検査など
無精子症の検査では、まず「本当に精子がいないのか」を確認するために、精液検査を行います。精液検査では、精液中の精子の数や運動率、形などを詳しく調べます。
次に、無精子症の原因を探るために、ホルモン検査や画像検査を行います。ホルモン検査では、血液中の精子を作るために必要なホルモンの量を測定します。もし、これらのホルモン値が低い場合は、脳からの指令がうまく伝わっていない可能性があり、非閉塞性無精子症が疑われます。
画像検査では、超音波検査やMRI検査を行い、精巣や精路の形態に異常がないかを確認します。これらの検査によって、精路の閉塞や精巣の腫瘍などが見つかる場合があり、原因に応じた治療法を検討する上で重要な手がかりとなります。

無精子症の治療法
無精子症と一言で言っても、原因や状態は人それぞれです。まずは、ご自身の状態を正しく理解し、それに合った治療法を見つけることが大切です。ここからは原因別に治療法をご紹介します。
閉塞性無精子症の治療:手術による精路の開通
閉塞性無精子症は、精巣で精子は作られているのに、精子の通り道である精路がどこかで詰まっているために、精液中に精子が出てくることができない状態です。閉塞性無精子症の原因として多いのは、子供の頃に受けた鼠径ヘルニアの手術の影響です。鼠径ヘルニアは、お腹の中にある腸の一部が、足の付け根にある「鼠径管」という管を通って、皮膚の下に出てきてしまう病気です。鼠径ヘルニアの手術では、飛び出した腸を元の位置に戻し、鼠径管を糸で縫い縮めます。
しかし、この手術によって、精管も一緒に縫い縮められてしまい、精子の通り道が狭くなったり、完全に閉塞してしまったりすることがあるのです。このような場合は、手術によって精路の封鎖箇所を開通させることで、精子が自然に体外へ排出されるようにします。顕微鏡を用いた精細管吻合術などの手術によって、閉塞部分をつなぎ合わせ、精路を開通させることで、自然妊娠の可能性が期待できます。その他、尿道カテーテルを用いて精路を開通する方法などもあります。
非閉塞性無精子症の治療:ホルモン療法、顕微授精など
非閉塞性無精子症は、精巣自体で精子が作られていない、あるいは、十分な量の精子が作られていない状態です。原因としては、ホルモンの異常や染色体異常、精巣の機能不全、先天的な病気など、実にさまざまです。このような場合は、ホルモン療法によって精子の生成を促したり、顕微授精などの生殖補助医療技術を用いることで、妊娠を目指す方法があります。
ホルモン療法では、精子の生成を促すホルモン製剤を注射や内服薬によって投与します。脳の下垂体から分泌される性腺刺激ホルモンであるFSH(卵胞刺激ホルモン)やLH(黄体形成ホルモン)の分泌が不足している場合は、これらのホルモン製剤を投与することで、精巣での精子産生を促します。
顕微授精とは、細いガラス針を用いて、採取した精子を卵子に直接注入する技術です。体外に取り出した卵子に、顕微鏡下で1つずつ精子を注入し、受精卵を子宮に戻します。非閉塞性無精子症の場合でも、精巣内にごくわずかながら精子が作られている場合があります。精巣内精子回収術(TESE)という方法で、精巣から直接精子を採取し顕微授精を行うことで、妊娠を目指した治療が可能です。
無精子症の最新治療:精巣内精子回収術(TESE)
無精子症の治療法の一つである顕微授精は、近年、技術的な進歩が著しく、妊娠率も向上しています。特に、精巣内精子回収術(TESE)は、精巣から直接精子を採取する手術であり、非閉塞性無精子症の患者さんにとって、新たな希望となっています。
従来の方法では精子が見つからなかった場合でも、TESEを行うことで、精子が採取できる可能性があります。TESEは、局所麻酔または全身麻酔を行い、陰嚢に小さな切開を加えて、精巣の一部を採取します。そして、採取した精巣組織を顕微鏡で観察しながら、精子を探し出します。この方法であれば、精巣内でごくわずかにしか精子が作られていない場合でも、精子を採取できる可能性があります。
しかし、TESEは、精巣に針を刺して精子を採取するため、痛みや出血、感染などのリスクを伴います。また、精巣組織を採取するため、精巣の機能が低下してしまう可能性もゼロではありません。医師とよく相談し、ご自身の状態に最適な治療法を選択することが大切です。
無精子症の治療期間と費用:治療法や医療機関によって異なる
無精子症の治療期間や費用は、原因や治療法、そして医療機関によって大きく異なります。例えば手術療法の場合、入院期間や術後の通院回数、術式の難易度によって費用が変わってきます。
また、顕微授精などの生殖補助医療技術を用いる場合は、回数や薬剤の使用量、併用する治療法によって費用が異なります。さらに、医療機関によって、技術料や診察料などが異なる場合もあります。治療を受ける前に、医療機関に治療期間や費用について、詳しく相談するようにしましょう。
無精子症の治療を受ける際の注意点
無精子症の治療は、決して容易な道のりではありません。しかし、それでも諦めずに、一歩ずつ前に進んでいけるかどうかは、医師との信頼関係、そしてパートナーとの絆にかかっています。無精子症の治療を受けるにあたって、ぜひ心に留めておいていただきたい注意点がいくつかあります。
まず男性不妊治療は、一般的に長期戦になる場合が多いです。治療期間が長引くことで、精神的な負担も大きくなり、焦りや不安を感じやすくなるかもしれません。そのため、パートナーと協力し、支え合いながら治療を進めていくことが大切です。また、治療には、少なからず費用がかかります。治療法や医療機関によって費用は異なりますので、事前にしっかりと確認しておきましょう。
最も重要なことは、信頼できる専門医を選ぶことです。男性不妊治療は、高度な専門知識と技術を要します。豊富な経験と実績を持つ専門医に相談し、ご自身の状態や治療方針について、納得いくまで話し合うことが大切です。
無精子症に関するよくある質問
無精子症に関するよくある質問についてまとめています。
Q1.無精子症でも父親になれますか?
無精子症と診断されると、「自分たちはもう子供を持てないのだろうか…」と、深い失意に襲われる方も少なくありません。精液検査で精子が1つも確認できないという現実は、男性にとって大きなショックであり、将来に対する不安やパートナーへの罪悪感など、ネガティブな感情が沸き起こるのも無理はありません。
しかし、医学の進歩は目覚ましく、無精子症と診断されても諦めるには早いです。現代の生殖医療には、無精子症であっても、父親になるチャンスを掴むためのさまざまな治療法や選択肢が存在します。
Q2.無精子症でも自然妊娠はできますか?
無精子症の場合、自然妊娠の可能性は極めて低いと言わざるを得ません。自然妊娠は、女性の体内で精子と卵子が出会い、受精が成立することで実現します。しかし、無精子症は、精液中に精子が全く存在しない状態であるため、精子と卵子の出会いがそもそも期待できないのです。
ただし、ごく稀に、精巣内には精子を作る能力が僅かに残っているケースも報告されているため、可能性はゼロではありません。諦める前に、まずは専門医による適切な検査や治療を受けることが重要です。
Q3.無精子症の予防法は?生活習慣で改善できますか?
無精子症の完全な予防法はありませんが、精子の質と量を維持するために有効な生活習慣があります。バランスの取れた食事と適度な運動が重要です。特に、亜鉛やビタミンCなどの栄養素が豊富な食品を摂取することが推奨されます。
喫煙や過度の飲酒を避け、ストレスを管理することも大切です。さらに、定期的な健康診断を受け、性感染症の予防と早期治療に努めることも重要です。ただし、これらの方法がすべての無精子症を予防・改善するわけではありません。症状が気になる場合は早めに専門医に相談することをおすすめします。

まとめ
無精子症は、精液中に精子が全く確認できない状態であり、見た目でわかる症状はありません。原因は、精子の通り道が詰まる閉塞性と、精巣で作られない非閉塞性に分類されます。検査は、精液検査、ホルモン検査、画像検査などを行い、原因を特定します。
治療法は、原因によって異なり、閉塞性は無精子症は手術、非閉塞性無精子症はホルモン療法や顕微授精などが検討されます。治療期間や費用は、原因や治療法、医療機関によって異なります。無精子症でも、顕微授精や養子縁組など、子どもを持つ選択肢はあります。パートナーとよく話し合い、専門医に相談しながら、自分に合った方法を見つけましょう。
無精子症をはじめ、不妊の原因は女性だけでなく男性側にも影響があることが知られています。以下の記事では、男性不妊になりやすい人の特徴を解説しているのでチェックしてみてください。
>>【医師監修】男性不妊になりやすい人の特徴とは?原因や治療法も解説
参考文献
Cocuzza M, Alvarenga C, Pagani R. The epidemiology and etiology of azoospermia. Clinics (Sao Paulo, Brazil) 68 Suppl 1, no. Suppl 1 (2013):15-26.