
【医師監修】無排卵月経の原因と治療法!放置リスクと改善への道筋
公開日:2025.02.26更新日:2025.02.26
生理が毎月順調だからと安心していませんか?実は、生理が来ていても排卵していない「無排卵月経」の可能性があります。 自覚症状が乏しいため、適切な治療を受けないと不妊症や子宮体がんのリスクが高まる可能性があります。
無排卵月経の症状や原因、検査方法から具体的な治療法まで、医師監修のもと詳しく解説します。ご自身の身体と向き合う第一歩として、ぜひお読みください。
神奈川県相模原市 淵野辺駅から徒歩2分にあるソフィアレディスクリニックは、妊娠の悩みに強みを持つクリニックです。専門医が相談に乗りますのでお気軽に相談にいらしてください。
無排卵月経を理解する3つのポイント
自分自身で無排卵月経かどうかを判断することは困難です。無排卵月経を理解するポイントとして、以下の3つが挙げられます。
- 無排卵月経と普通の生理との違い
- 無排卵月経の症状と見分け方
- 無排卵月経が身体に与える不妊症や将来の病気のリスク
無排卵月経と普通の生理との違い
無排卵月経と普通の生理の大きな違いは「排卵の有無」です。排卵がある場合、妊娠が可能ですが、無排卵月経では妊娠はできません。
普通の生理では、脳からの指令を受けて卵巣から成熟した卵子が排出されます。同時に、妊娠に備えて子宮内膜が厚くふかふかになります。妊娠しなかった場合は、厚くなった子宮内膜が剥がれ落ちて出血が起こります。
無排卵月経では、排卵が起こらないにもかかわらず、卵胞ホルモン(エストロゲン)の影響で子宮内膜が増殖します。そして、ある程度の厚さになると剥がれ落ちて出血します。見た目は普通の生理とほとんど変わりません。
無排卵月経の症状と見分け方
無排卵月経では、以下の症状が現れることがあります。
- 生理周期が不規則:いつも28日周期なのに、急に20日周期になったり、40日周期になったりと周期が乱れる
- 生理の出血量の変化:いつもの生理より出血量が極端に多かったり、逆に少なかったりする
- 生理痛の変化:いつもの生理痛より重くなったり、軽くなったり、生理痛が全くない場合もある
- 基礎体温が一相性:低温期と高温期がない
他の婦人科疾患でも見られる症状のため、無排卵月経かどうかを自己判断することは危険です。月経周期の乱れは子宮筋腫や子宮内膜症、出血量の変化は子宮頸がん、生理痛の変化は子宮内膜症や感染症など、さまざまな疾患の可能性が考えられます。
子宮内膜症や子宮筋腫などは、不妊の原因となることがあります。子宮筋腫の原因・子宮内膜ポリープの手術について詳しく知りたい方は、以下の記事をぜひご覧ください。
>>子宮筋腫の原因は女性ホルモンの変化?ピルや性行為との関係についてもわかりやすく解説
>>子宮内膜ポリープは手術で治る?痛くない手術の実施方法や費用・保険適用有無について解説
無排卵月経が身体に与える不妊症や将来の健康リスク
無排卵月経を放置すると、さまざまなリスクがあり、特に大きなリスクは不妊です。妊娠を希望している方は、早期の診断と治療が重要です。エストロゲンが過剰に分泌されると、子宮内膜が過剰に増殖し、将来的に子宮体がんのリスクが高まる可能性があります。
子宮体がんは子宮内膜から発生するがんで、初期には自覚症状が少ないため、早期発見が重要です。長期間エストロゲンが不足すると、骨密度が低下し、骨粗鬆症のリスクも高まります。骨粗鬆症は骨がもろくなり、骨折しやすくなる病気です。
閉経後の女性に多く見られますが、無排卵月経によってエストロゲンが不足すると、若年層でも骨粗鬆症のリスクが高まる可能性があるのです。無排卵月経は、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や早発卵巣不全(POI)、高プロラクチン血症などの病気が原因で起こることもあります。
不妊症や健康問題を引き起こす可能性があるため、早期発見と適切な治療が不可欠です。不妊症について網羅的に知りたい方はぜひ以下の記事も合わせてご覧ください。
>>不妊症とは?定義やなりやすい人の特徴・割合についても解説
無排卵月経の原因4つ
無排卵月経の原因は多岐にわたり、複数の要因が複雑に絡み合っているケースも少なくありません。無排卵月経の原因は、以下の4つが挙げられます。
- 生活習慣の乱れ
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
- 早発卵巣不全(POI)
- その他のホルモン異常
生活習慣の乱れ
日常生活における習慣は、ホルモンバランスに想像以上に大きな影響を与えています。思春期はホルモンバランスが未成熟で、月経周期が安定していないため、無排卵月経が起こりやすい時期です。一過性のものが多いですが、長引く場合は医療機関への相談が必要です。
不規則な生活や睡眠不足、過度なダイエット、激しい運動なども、ホルモンの分泌リズムを乱し、排卵を阻害する可能性があります。ホルモンは体内時計と密接に関係しており、不規則な生活は視床下部や下垂体といった、ホルモン分泌を司る脳の領域に悪影響を及ぼします。
過度なダイエットは身体に強いストレスを与え、脳の視床下部や下垂体の機能を低下させる可能性があります。視床下部と下垂体は卵巣に指令を送り、排卵を促す重要な役割を担っています。正常に機能しないと、排卵がスムーズに行われなくなってしまいます。
ダイエットによる栄養状態の悪化は、卵胞の発育に必要な栄養を不足させ、卵胞が十分に成熟しないまま排卵に至らないケースも考えられます。激しい運動も、ホルモンバランスを崩す一因です。過度な運動は、女性ホルモンの分泌を抑制し、排卵を妨げる可能性があります。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS: Polycystic Ovary Syndrome)は、卵巣に多数の小さな卵胞(10個以上)ができる病気です。卵胞は成熟せず、排卵が起こりにくいため、無排卵月経の主な原因となります。卵胞が成熟しない原因の一つとして、男性ホルモンの過剰分泌が挙げられます。排卵障害の原因として比較的一般的です。
PCOSでは、月経異常だけでなく、多毛やにきびなどの症状が現れることもあります。男性ホルモンの増加に起因する症状です。PCOSはインスリン抵抗性を伴うことが多く、将来的には糖尿病などの生活習慣病のリスクを高める可能性も懸念されています。
早発卵巣不全(POI)
早発卵巣不全(POI: Primary Ovarian Insufficiency)は、40歳より前に卵巣機能が低下する状態です。卵巣内の卵子の数が減少し、排卵が不規則になったり起こらなくなったりするため、無排卵月経につながることがあります。POIは、女性の不妊症の要因の一つであり、若くして妊娠が難しくなる深刻な状態です。
POIの原因は多様ですが、遺伝子異常や自己免疫疾患、環境要因などが関係していると考えられています。環境要因としては、重金属やプラスチックに含まれる可塑剤(フタル酸エステル類)などの内分泌かく乱物質の影響が指摘されています。ホルモンの働きを阻害し、卵巣機能の低下を引き起こす可能性があります。
その他のホルモン異常
無排卵月経を引き起こすホルモン異常は、PCOSやPOI以外にも多岐にわたります。母乳の分泌を促進するプロラクチンというホルモンの分泌過多は排卵を抑制し、無排卵月経を引き起こす可能性があります。高プロラクチン血症は、脳下垂体に腫瘍ができることで起こることがあります。
甲状腺ホルモンの異常も、月経周期に影響を与えることが知られています。甲状腺ホルモンは、新陳代謝を調節するホルモンですが、生殖機能にも関わっています。甲状腺機能の低下は、排卵を抑制し、無排卵月経につながる可能性があります。
ストレスもホルモンバランスを乱す大きな要因となります。強いストレスは、視床下部からのホルモン分泌に影響を与え、排卵を妨げることがあります。慢性的なストレスは、自律神経のバランスを崩し、ホルモン分泌に悪影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。
ホルモン異常は、血液検査で確認できます。無排卵月経が続いている場合は、医療機関を受診し、適切な検査を受けることが重要です。

無排卵月経の検査と診断方法
無排卵月経かどうかを確かめるためには、いくつかの検査方法を組み合わせて総合的に判断します。検査と診断方法として、以下のことが挙げられます。
- 基礎体温
- 血液検査
- 超音波検査
- 医師による問診
基礎体温
毎朝、起床してすぐ、身体を動かす前に体温を測り、記録していくことで、体温の変化のパターンを把握できます。通常、生理のある女性では、低温期と高温期の二相性パターンが見られますが、無排卵月経の場合は高温期が見られず、体温がほぼ一定の一相性になることが多いです。
しかし、体温はさまざまな要因で変動するため、基礎体温表だけで無排卵月経を確定診断することはできません。
血液検査
医療機関で行う検査として、血液検査では、エストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)などの女性ホルモンの量を測定します。ホルモン値を調べることで、卵巣機能の状態やホルモンバランスの乱れを把握できます。プロゲステロンの値が低い場合は、排卵が起こっていない可能性が高いと判断できます。
超音波検査
超音波検査では、プローブと呼ばれる器具を膣内に挿入し、卵巣の状態を直接観察します。卵胞の大きさや数、子宮内膜の厚さなどを確認することで、排卵の有無や子宮内膜の状態を評価できます。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の場合、卵巣内に小さな卵胞が多数存在する特徴的な画像所見が見られます。
医師による問診
生理周期や月経時の出血量、生理痛の有無、妊娠希望の有無など、さまざまな情報を伺うことで、無排卵月経の可能性や原因を探っていきます。生理周期が不規則な場合や、1年以上の避妊なしの性交渉を行っているにもかかわらず妊娠しない場合は、無排卵月経の可能性が高いと考えられます。
無排卵月経の4つの治療法
無排卵月経の主な治療法を4つご紹介します。治療法の特徴やメリット・デメリットを理解し、医師とよく相談しながら治療を進めていきましょう。
- 生活習慣改善:ストレス管理・食生活・運動
- ホルモン療法:低用量ピル・排卵誘発剤
- 漢方薬
- その他:手術療法など
生活習慣改善:ストレス管理・食生活・運動
無排卵月経の原因がストレスや生活習慣の乱れにある場合は、薬物療法の前に自身の力で改善できる方法を試してみましょう。改善すべき生活習慣は以下のとおりです。
- ストレス管理
自分なりのストレス解消法を見つけることが大切です。アロマテラピーや瞑想、ヨガ、ウォーキング、読書、音楽鑑賞など、リラックスできる方法を試してみましょう。友人や家族と過ごす時間や、趣味に没頭する時間も効果的です。自分だけでは対処できないと感じる場合は、心療内科や精神科への相談も検討してください。 - 食生活改善
バランスの取れた食事は、ホルモンバランスを整えるうえで重要です。ビタミンやミネラル、食物繊維は、ホルモンの合成や分泌に関わる酵素の働きを助けるため、積極的に摂取するように心がけましょう。ビタミンB6はプロゲステロンの産生を促進し、ビタミンEはホルモンバランスの維持をサポートすると考えられています。鉄分は月経時の出血で失われやすいため、意識的に摂取することが大切です。 - 適度な運動
適度な運動は、ストレス軽減や血行促進に効果があり、ホルモンバランスの改善にもつながります。ウォーキングやヨガ、軽いジョギングなど、無理なく続けられる運動を生活に取り入れてみましょう。運動は、心身の健康を維持するうえで重要な役割を果たします。激しい運動はかえってストレスホルモンの分泌を増加させ、ホルモンバランスを乱す可能性がありますので、適度な運動を心がけましょう。
ホルモン療法(HRT):低用量ピル・排卵誘発剤
生活習慣の改善だけでは効果が見られない場合や、妊娠を希望する場合は、ホルモン補充療法(HRT:Hormone Replacement Therapy)が選択肢となります。HRTは、不足しているホルモンを補ったり、ホルモンバランスを調整したりすることで、排卵を促す治療法です。
低用量ピルは、卵胞ホルモンと黄体ホルモンを配合した薬で、ホルモンバランスを整え、月経周期を規則正しくする効果があります。妊娠を希望しない場合に適した治療法です。副作用として、吐き気や頭痛、乳房の張りなどが現れる場合もありますが、多くの場合、服用を続けるうちに軽快します。
排卵誘発剤は、妊娠を希望する方々のために排卵を促す薬です。内服薬(クロミフェン、レトゾールなど)や注射薬(ゴナドトロピン)などがあります。クロミフェンは、脳にエストロゲンが少ないと錯覚させます。
レトゾールは、アロマターゼという酵素の働きを阻害することでエストロゲンの産生を抑制し、どちらも卵胞刺激ホルモン(FSH: Follicle Stimulating Hormone)の分泌を促進します。ゴナドトロピンは、FSHと黄体化ホルモン(LH: Luteinizing Hormone)を直接投与し、卵胞の発育と排卵を促します。体外受精(IVF: In Vitro Fertilization)において卵巣刺激の目的で使用されることがあります。

漢方薬
身体全体のバランスに着目した治療です。西洋医学とは異なるアプローチで、体質改善を目的としています。一人ひとりの症状や体質に合わせて処方されるため、医師との相談が不可欠です。冷え性や貧血、ストレスなどが原因で無排卵月経になっている場合に有効な漢方薬もあります。
その他:手術療法など
無排卵月経の原因が子宮筋腫や卵巣嚢腫などの器質的疾患である場合は、手術療法が必要になることもあります。POIの場合は、ホルモン補充療法(低用量ピル・排卵誘発剤など)が用いられます。POIは40歳未満で卵巣機能が低下する疾患で、エストロゲン低下、ゴナドトロピン上昇、月経不順や無月経を伴います。
HRTは、自然閉経年齢(51歳)まで性ステロイドを補充することで、閉経症状などの短期的な合併症や、骨粗鬆症、心血管疾患、認知機能低下、不妊、性機能障害といった長期的な影響を軽減します。
まとめ
無排卵月経は自覚症状が乏しいことが多く、放置すると不妊症や子宮体がん、骨粗鬆症のリスクを高める可能性があります。原因は生活習慣の乱れや多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、早発卵巣不全(POI)、ホルモン異常などさまざまです。
検査は基礎体温測定や血液検査、超音波検査などを通して行います。治療法は、生活習慣の改善やホルモン療法、漢方薬などがあり、個々の状況に合わせて選択されます。妊娠を希望する場合、排卵誘発剤を用いた治療が選択肢となります。気になる症状があれば、早めに産婦人科や婦人科・内分泌科を受診し、適切な検査と治療を受けましょう。
参考文献
Haitham Hamoda, Angela Sharma. Premature ovarian insufficiency, early menopause, and induced menopause. Best Pract Res Clin Endocrinol Metab, 2024, 38(1), p.101823.