
顕微授精とは?ふりかけ法と何が違う?メリットやリスク・費用を解説
公開日:2024.06.28更新日:2026.01.28
体外受精には「顕微授精」と「ふりかけ法」の2つがあります。これらの方法は、受精のプロセスや適応となる対象者に違いがあります。ふりかけ法での受精がうまくいかなかった場合でも、顕微授精を選択することで、受精の可能性が高まることがあります。
この記事では、ふりかけ法との比較を交えながら、顕微授精の流れやメリット・デメリットを詳しく解説します。
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顕微授精とは精子を卵子内に直接注入する受精技術
顕微授精は、卵子が精子を取り込む最初のプロセスを人工的にサポートする方法の一つです。形状が正常で運動能力に優れた精子を1つ選び、それを手作業で卵子の中に注入します。
現在主流となっているのは「卵細胞質内精子注入法(Intracytoplasmic Sperm Injection:ICSI)」です。ふりかけ法で受精に至らなかったケースや、精子の数が少なく自然妊娠が難しいと判断される場合には、顕微授精が有効な選択肢となり得ます。
ふりかけ法と顕微授精の違いを比較
ふりかけ法と顕微授精の大きな違いは受精方法です。ふりかけ法は精子自身が持つ力によって自然に近い形で受精を起こすのに対して、顕微授精では人工的に受精させます。
ふりかけ法の特徴は以下のとおりです。
- 卵子が入ったシャーレに精子をふりかける
- 精子が自力で卵子に侵入するのを待つ
- 自然に近い形での受精が可能
- 卵子への物理的なストレスが少ない
- 精子または卵子に受精障害があると受精率が下がる
顕微授精の特徴として、以下が挙げられます。
- 胚培養士が1つの精子を選び、ガラス管で卵子に注入する
- 人工的に受精を成立させる技術
- 精子の形態や運動性を見て最適なものを使用できる
- 受精率が高くなる可能性がある
- 専門的な設備と技術が必要
ふりかけ法は自然なプロセスを活かした方法であるのに対し、顕微授精は技術を用いて受精を確実に行う方法です。各方法にはメリット・デメリットがあるため、状況に応じた選択が重要です。
顕微授精のメリット3つ
顕微授精は、採取した精子から胚培養士が良好な精子を選ぶので、特に男性側に不妊の原因がある場合は妊娠の可能性を高められます。
顕微授精のメリットは、以下の3つです。
- 受精率が高い
- 精子が1つでもいれば受精可能
- 形態・運動性の良い精子の選別ができる
受精率が高い
顕微授精は、胚培養士が顕微鏡を使って確認しながら、卵子の細胞質の中に精子を確実に注入する方法です。精子が自力で卵子に到達する必要がないため、受精の成功率が高く、一般的に約80%の受精率が見込まれています。
ふりかけ法と比較すると、妊娠率に大きな差は見られませんが、受精率の面では顕微授精のほうが優れているとされています。特に、妊娠がなかなか成立しない原因が受精障害による場合には、顕微授精が有効な選択肢です。
精子が1つでもいれば顕微授精は可能
ふりかけ法では、卵子1個に対しておよそ10万個の精子が必要とされます。しかし、顕微授精では生存している精子が1つでもあれば受精が可能です。現在の医療技術では、射出された精液中に精子が確認できない無精子症の方でも、受精できる可能性があります。
精巣から直接精子を採取する手術(TESEなど)を行うことで、顕微授精の実施が可能です。これにより、重度の男性不妊であっても、妊娠への道が開かれるケースが増えています。
形態・運動性に優れた精子を選んで受精できる
ふりかけ法では、一定数の精子を卵子の周囲に泳がせて自然な受精を促すため、どの精子が受精に関与するかを選ぶことはできません。受精に用いる精子は前処理で運動性の良い精子を集めていますが、中には運動性が良くても形態的に異常な精子が含まれることもあります。形態に異常がある精子は受精に至らないリスクがあります。
顕微授精では、胚培養士が精子を1つずつ顕微鏡で確認しながら、形態・運動性の良い精子を厳選して使用できます。そのため、受精成功の可能性が高い点が大きなメリットです。
顕微授精の考えられる主なリスク5つ
顕微授精の考えられるリスクは、以下の5つです。
- 卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
- 採卵時の出血・感染症リスク
- 卵子への損傷リスク
- 先天異常のリスク増加の可能性
- 費用と通院負担の増加
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)
卵巣過剰刺激症候群とは、顕微授精を行うためにホルモン剤で卵巣を刺激したときに起こる副作用の一つです。卵巣が過剰に反応して腫れ、腹部に水がたまったり、痛みやむくみが生じます。場合によっては血液が固まりやすくなる血栓症など、重い合併症を引き起こすこともあります。
主な症状は腹痛、吐き気、息切れなどです。治療が早ければ軽く済みますが、重症化した場合は入院が必要になることもあるため、治療中は医師の指示をよく守り、体調に変化があれば速やかに相談することが大切です。
採卵時の出血・感染症リスク
顕微授精のためには体外で受精させる卵子を採取する必要があります。「採卵」は腟の近くから針を刺して卵巣内の卵子を取り出す方法で行います。この手技には出血や感染症のリスクがあり、まれに大量出血が起きたり、針の通過した部分から細菌が入り込み炎症を起こすこともあります。
感染症が起きると痛みや発熱が出るため、異変を感じたらすぐに病院へ行くことが重要です。安全に行うため経験豊富な医師が対応し、適切な処置や抗生物質でリスクは抑えられています。
卵子への損傷リスク
顕微授精は顕微鏡下でごく細い針(マイクロピペット)を使い、1つの精子を直接卵子に注入する技術です。しかし、卵子に針を刺して精子を入れるとき、卵子そのものに傷がついたり割れてしまうリスクがあります。操作の際に微妙に卵子の中の構造を傷つけることがあり、それが受精率や胚の発育に影響を与える可能性もあります。
熟練した技術で行われますが、リスクをゼロにすることは難しいです。どんな方法でも一定の失敗確率があることを理解しておく必要があります。
先天異常のリスク増加の可能性
顕微授精で生まれた子どもの先天異常については、一部の調査で自然妊娠の子どもと比べて若干増える可能性が示唆されています。しかし、大規模な調査では、先天異常の発生率は顕微授精でも自然妊娠とほぼ同程度であると報告されており、明確なリスクの増加が証明されているわけではありません。
また、顕微授精を必要とするケースでは、もともと不妊などの背景が先天異常のリスクに影響している可能性も指摘されており、顕微授精そのものの影響を切り離して判断することは難しい状況です。
今後も出生児の健康状態や発育などについて、長期的な追跡調査が重要とされています。不安がある場合は医療機関で遺伝カウンセリングも受けられます。体外受精のリスクについて詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
>>体外受精の7つのリスク!先天的障害の可能性や合併症を詳しく解説

費用と通院負担の増加
顕微授精は技術的に高度で、通常の体外受精よりも費用が高くなりがちです。また、治療には複数回の通院や検査、投薬が必要で、仕事や生活との両立が負担になることもあります。採卵や移植の準備など、体への負担もあります。これらを考慮し、治療計画を医師とよく相談しながら進める必要があります。
経済的負担と体力的負担の両方を理解し、サポートを受けながら進めることが大切です。
顕微授精の基本的な流れ
顕微授精は、卵巣刺激・採卵・胚培養・胚移植といった基本的なステップはふりかけ法と同じです。精子と卵子を受精させる方法が大きく異なります。顕微授精の基本的な流れとして、以下の手順を解説します。
- STEP1:採卵する
- STEP2:回収した精子を選別する
- STEP3:卵子に精子を注入する
- STEP4:胚を培養する
- STEP5:胚移植を行う
STEP1:採卵する
卵巣刺激により卵胞を育て、排卵直前で卵胞から卵子を含む卵胞液を取り出します。採卵は、経腟の超音波で確認しながら卵巣に針を刺して行います。局所麻酔または静脈麻酔を使用するクリニックが多いです。卵子が採取できたら、培養液に入れて顕微授精まで培養します。
STEP2:回収した精子を選別する
約3日間の禁欲期間のあとに精液を採取します。洗浄処理と良好運動精子を分離した上で、形態が正常で運動性が良好な精子を選びます。このときに精子の不動化処理をしますが、この操作は精子から卵活性化物質を出やすくするために必要な作業です。
STEP3:卵子に精子を注入する
選別した精子をマイクロピペットと呼ばれる細いガラス管を使って吸い取ります。マイクロピペットで卵子の細胞膜を貫通させ、卵細胞質の中に精子を注入します。注入時は、卵子の紡錘体*を傷つけないように注意が必要です。卵子の第一極体と呼ばれる部分を12時の方向に固定し、3時の方向から針を注入します。
*紡錘体・・・染色体の分裂に重要な役割を果たす構造物
STEP4:胚を培養する
受精卵が発育し、2細胞期になると胚と呼ばれるようになり、2〜6日間培養を行います。胚を最適な環境で培養するためには、培養液だけでなく、温度やpHにも気を配ることが必要です。培養が順調に進むと、胚は細胞が4〜8分割した初期胚から胚盤胞まで成長を続けます。胚の状況を確認しながら、初期胚または胚盤胞を胚移植に用います。
STEP5:胚移植を行う
胚を子宮内に戻すことを胚移植といいます。胚移植は、採卵した周期の新鮮な胚をそのまま使用する場合と、初期胚または胚盤胞の段階で凍結した胚を、別の周期で溶かして使用する場合があります。多胎妊娠を防ぐために、移植に使用する胚の個数は原則的には1個です。
顕微授精とふりかけ法を組み合わせた受精アプローチ
顕微授精とふりかけ法を組み合わせた受精方法には、いくつかのアプローチがあります。顕微授精とふりかけ法を組み合わせた受精アプローチとして、以下の2つを解説します。
- スプリット:ふりかけ法と顕微授精を併用する方法
- レスキューICSI:ふりかけ法で受精しなかった場合の対応
スプリット:ふりかけ法と顕微授精を併用する方法
スプリットとは、ふりかけ法と顕微授精を同時に行う受精方法です。精液の状態があまり良くない場合でも、ふりかけ法で受精の可能性があると判断されたときに選択されます。
- 精液所見が不良でもふりかけ法での可能性を残せる
- 顕微授精を併用することで受精卵ゼロのリスクを下げられる
- 採卵した卵子を2つの方法に分けるため、採卵数が多い場合に限られる
この方法により、より確実に受精卵を得られる可能性が高まります。
レスキューICSI:ふりかけ法で受精しなかった場合の対応
レスキューICSIとは、ふりかけ法で受精しなかった卵子に対して、当日中に顕微授精を追加で行う方法です。ふりかけ法を始めてから4〜6時間後に観察し、受精の兆候が見られない場合には、すぐに卵子を回収して顕微授精を行います。レスキューICSIの特徴は、以下のとおりです。
- 受精に至らなかった卵子に対して即座に対応できる
- 成績は通常の顕微授精と同程度とされる
- 精液所見が良好でも受精しないケースに有効
- 胚移植に進めない事態を防ぐための対策として有用
すでに受精が成立していた卵子に顕微授精を行ってしまうと、多精子受精(異常受精)になるリスクがあるため、慎重な判断が求められます。

顕微授精をおすすめする方
顕微授精が適しているのは、以下のような状況に該当する方です。
- 重度乏精子症の場合
- 精子無力症の場合
- 精子奇形症の場合
- 不動精子症の場合
- 調整後の運動精子濃度が2,000万/ml未満の場合
- 精子の正常形態率が著しく低い場合
- TESEで精子を採取した場合
- 抗精子抗体が認められる場合
いずれも、ふりかけ法での受精が困難または期待できないケースに該当します。顕微授精は、精子の状態に問題がある、または特殊な方法で採取した場合に効果が期待できます。なお、体外受精のふりかけ法は、受精が難しいご夫婦におすすめします。
以下の記事では、体外受精の仕組みや進め方、向いているケース、注意点などをわかりやすく解説しています。
>>体外受精の基本がわかる!治療の流れ・対象者・成功率・リスクまで徹底解説
顕微授精のよくある質問
顕微授精のよくある質問として、以下の3つを解説します。
- 顕微授精は痛い?
- 何回まで挑戦できる?
- 生まれてくる赤ちゃんへの影響はある?
顕微授精は痛い?
顕微授精で感じる痛みは、ほとんどが採卵のときです。多くのクリニックでは静脈麻酔を使って行うため、手術中の痛みはほとんどありません。麻酔が切れた後に、軽い腹痛や違和感を感じることはありますが、一時的なもので、処方される痛み止めでコントロール可能です。
胚移植のときには麻酔を使わずに行いますが、内診と同じくらいの軽い不快感があるだけで、強い痛みではありません。人によっては、生理痛のような鈍い痛みが半日〜1日続くことがあります。しかし、日常生活に支障が出るほどではないと感じる方がほとんどです。
痛みに不安がある方は、事前に医師に相談すれば適切な痛みの対処法を提案してもらうことができます。
顕微授精は何回まで挑戦できる?
顕微授精に医学的な回数制限はありませんが、治療を続けるうえでの現実的な制限はあります。保険が使えるのは、通算6回まで(40歳以上は3回まで)と決められており、この範囲で妊娠・出産を目指すことになります。
自費診療であれば何回でも挑戦はできますが、費用や身体・心の負担をふまえて検討することが大切です。治療を続けるほど妊娠率が少しずつ高まっていきますが、3~4回受けても妊娠に至らない場合は、治療方法を見直すタイミングかもしれません。
年齢や卵巣の状態、これまでの治療内容をふまえて、医師とよく相談しながら自分に合った治療計画を立てることが大切です。
生まれてくる赤ちゃんへの影響はある?
顕微授精は、自然妊娠と比べると先天異常のリスクがわずかに高いと報告されています。ただし、その差はごく小さく、多くの場合は大きな心配はいりません。治療を受ける方の年齢や、不妊の原因そのものが影響しているとも考えられています。
これまでに世界中で数百万人の赤ちゃんが顕微授精で誕生しており、多くの子どもたちが健康に育っています。知能や身体の発達も自然妊娠と変わらないという調査結果が出ており、成人後の健康状態も良好です。不安な点がある場合は、妊娠中の定期検診や超音波検査でフォローアップが受けられるので、安心して妊娠・出産に臨めます。
まとめ
ふりかけ法と顕微授精は、どちらも体外受精の一種ですが、受精方法や適応となるケースが大きく異なります。精子の数や運動性に問題がある場合、顕微授精は受精率を高める有効な手段です。
卵子へのダメージや費用・身体的負担、先天異常リスクなど、正確に理解しておくべきリスクも存在します。顕微授精を選ぶ際には、医師とじっくり相談し、夫婦で納得したうえで決断することが重要です。
不妊治療に正解はありません。迷ったときこそ、一人で抱え込まずにご相談ください。ソフィアレディスクリニックでは、ご夫婦の状況に合わせた丁寧なサポートを行っております。

参考文献
- 厚生労働省:諸外国における不妊治療に対する経済的支援等に関する調査研究
- Manish Banker, Parul Arora, Jwal Banker, Hetal Benani, Sandeep Shah, Parmeswaran Grace Luther Lalitkumar. Prevalence of structural birth defects in IVF‑ICSI pregnancies resulting from autologous and donor oocytes in Indian sub‑continent: Results from 2444 births. Acta Obstet Gynecol Scand, 2019, 98, 6, p.715‑721
- Anna‑Karina Aaris Henningsen, Signe Opdahl, Ulla‑Britt Wennerholm, Aila Tiitinen, Steen Rasmussen, Liv Bente Romundstad, Christina Bergh, Mika Gissler, Julie Lyng Forman, Anja Pinborg. Risk of congenital malformations in live‑born singletons conceived after intracytoplasmic sperm injection: a Nordic study from the CoNARTaS group. Fertil Steril, 2023, 120, 5, p.1033‑1041