
【産婦人科医監修】卵子凍結という選択肢|費用・リスク・妊娠率を正直に解説
公開日:2024.03.25更新日:2025.08.20
女性の社会進出などに伴い「現在は妊娠を希望していないけど、将来的に子どもが欲しい」という方は増えています。そのような事情に対して、卵子を凍結保存しておくことは有効な手段の一つです。この記事では、卵子凍結について治療方法や費用、デメリットなどを解説します。
神奈川県相模原市、淵野辺駅から徒歩2分のソフィアレディスクリニックは、妊娠の悩みに強みを持つ婦人科クリニックです。生理不順やPMSなどの女性特有のお悩みはもちろん、男性不妊の検査・治療にも対応し、ご夫婦のお悩みを専門医が丁寧にサポートします。
また、当院は橋本駅の長谷川レディースクリニックと密に連携し、婦人科・不妊治療を提供しています。2つの施設間で検査結果や治療方針を共有することで、よりスムーズな治療体制を整えています。体外受精をご検討の方にも、きめ細かな診療と迅速な対応をご提供していますので、お悩みの方は当院へご相談ください。
卵子凍結とは卵子を採取して凍結保存しておくこと

卵子凍結とは、将来の妊娠に備えて、あらかじめ女性から卵子を採取して凍結保存しておくことです。卵子凍結することで、年齢を重ねたあとでも、妊娠の可能性が低くなるのを防いでくれる効果が期待できます。
病気や仕事などの理由で、現在妊娠・出産を考えていないが、将来的に出産を希望するご家庭にとって、有効な手段の一つです。以下の項目に沿って詳しく解説します。
- 卵子凍結は「社会的適応」か「医学的適応」の場合に行われる
- 卵子凍結の対象年齢は40歳前後まで
- 「未受精卵凍結」と「受精卵凍結」の違い
卵子凍結は「社会的適応」か「医学的適応」の場合に行われる
卵子凍結は、主に社会的適応か医学的適応に当てはまる場合に行われます。社会的適応とは、病気などの問題はないが、仕事やプライベートが忙しく、現在は妊娠を希望していない方に行われる場合が該当します。若くて生殖能力が高いうちに卵子凍結を行い、加齢などによって子どもができにくくなる状態に備えているのです。
医学的適応とは、がんなどの治療に使う抗がん剤の副作用、放射線治療の過程で卵巣機能が低下する可能性がある場合に行われます。治療前にあらかじめ卵子凍結しておくことで、病気から回復後に妊娠を希望することが可能になるのです。
卵子凍結の対象年齢は40歳前後まで
卵子凍結を行える年齢は、40歳前後にしているクリニックが多いです。なぜなら40歳前後で卵子の質は低くなり、妊娠する可能性が高くないからです。無事に妊娠しても、40歳以降の出産は妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などを発症するリスクが増加し、母子ともに危険な状態になることがあります。
「未受精卵凍結」と「受精卵凍結」の違い
未受精卵凍結と受精卵凍結の違いは、凍結保存する前の卵子が受精しているかどうかです。将来的に出産を希望する場合、卵子・精子をそれぞれ単独で凍結保存しておくよりも、受精卵の状態で凍結保存したほうが妊娠しやすいです。現在は妊娠を希望していない夫婦などは、受精卵凍結のほうが良いかもしれません。以下の記事では、体外受精に伴う7つのリスクについて詳しく解説しています。先天的な障害の可能性や、治療を受ける前に知っておくべき注意点も紹介していますので、判断材料としてお役立てください。
>>体外受精の7つのリスク!先天的障害の可能性や合併症を詳しく解説

卵子凍結を考えるタイミングはいつ?年代別の判断基準
卵子凍結を検討するタイミングは、年齢と個人の状況によって大きく異なります。医学的には35歳頃から妊娠率の低下が始まるとされており、多くの専門医は20代後半〜30代前半での検討を推奨しています。卵子凍結を考えるタイミングについて、以下の項目に沿って解説します。
- 20代で卵子凍結を検討する場合
- 30代で卵子凍結を検討する場合
- 40代での卵子凍結の現実と注意点
20代で卵子凍結を検討する場合
20代での卵子凍結は卵子の質が最も良い時期ですが、将来の計画が不確定な場合も多く、慎重な判断が必要です。20代の卵子は染色体異常が少なく、妊娠率も高い傾向があります。しかし、まだ人生の選択肢が多く、10年以上先の将来を見据えた判断となるため、経済的負担と将来の不確実性を十分に考慮する必要があります。
キャリア形成を重視する職業(医師や研究者、経営者など)の女性や、若年性がんなどで治療が必要な場合に選択されることが多いです。家族歴で早期閉経のリスクがある場合や、長期間の海外赴任が予定されている場合も検討対象となります。
パートナーとの関係や将来の居住地が未定の場合は、慎重な検討が必要です。20代での選択は長期的な視点と十分な情報収集、そして将来への柔軟性を保った判断が特に重要です。
30代で卵子凍結を検討する場合
30代は卵子凍結を検討する方が最も多い年代で、キャリアと妊娠のバランスを考える重要な時期です。30代前半はまだ卵子の質が比較的良好で、同時にキャリアの方向性や人生設計がある程度固まってくる時期です。35歳を境に妊娠率が下がり始めるため、30代での決断が将来の選択肢を大きく左右します。
経済的にも安定してくる時期であり、費用面での負担も20代より軽減される場合が多いです。仕事が軌道に乗り始めた30代前半の女性や、パートナーがいても結婚・出産時期を慎重に検討している女性が多いです。1人目の出産後に2人目以降の妊娠に備えて検討する場合や、不妊治療を始める前の保険として考える方もいます。
40代での卵子凍結の現実と注意点
40代での卵子凍結は可能ですが、成功率が低下するため、現実的な期待値を理解することが重要です。40歳を過ぎると卵子の数と質が著しく低下し、採卵できる数も少なくなります。凍結・融解の過程で卵子が傷つくリスクも高くなり、妊娠に至る確率も大きく下がります。
高齢出産に伴うリスクも増加するため、総合的な検討が必要です。費用対効果の観点からも慎重な判断が求められます。40歳での採卵では1回の周期で採取できる卵子が1〜2個程度になることも多く、複数回の採卵が必要になる場合があります。
妊娠率も20代と比較すると低下し、胚移植あたりの妊娠率は20%以下まで下がることもあります。妊娠しても流産率が高くなるため(40歳以上で約40%)、総合的な成功率はさらに低くなる可能性があります。
以下の記事では、人工授精と体外受精の違いについて、特徴・成功率・費用の観点から詳しく比較しています。治療法の選択に迷っている方は、ぜひ参考にしてください。
>>人工授精と体外受精の違いとは?特徴と成功率、費用を徹底比較
卵子凍結の目的は妊娠率と流産率の維持
卵子は、凍結させた年齢の妊娠率と流産率の維持が期待できるので、卵子凍結することで妊娠しやすい期間の延長が可能です。男女ともに晩婚化していますが、将来の妊娠に備えて、若くて質の良い卵子を残しておきたいときの手段の一つになっています。各年齢ごとの妊娠率と流産率の維持について、以下の項目に沿って解説します。
- 卵子凍結した場合の妊娠率と流産率
- 年齢を重ねると妊娠が難しくなる理由
卵子凍結した場合の妊娠率と流産率
凍結保存した卵子は、使用するときには融解する必要があります。融解時に約半数の卵子は壊れて使用できなくなってしまうのです。解凍後に卵子が生存・受精しており、かつ受精卵の質が良い場合の卵子1個あたりの妊娠率は、以下のように幅があります。
- 34歳以下の妊娠率:35%前後
- 31歳〜34歳の妊娠率:30%前後
- 35歳~37歳の妊娠率:25%前後
- 38歳~39歳の妊娠率:20%前後
- 40歳以上の妊娠率:15%以下
排卵した年齢が上がるにつれて妊娠率が下がるだけでなく、無事に妊娠しても、流産してしまう可能性があります。自然流産率は30代前半で約10%、30代後半で約20%、40代になると41%以上に上がってしまいます。年齢を重ねるごとに妊娠率は低下していき、流産率は上がってしまうのです。
年齢を重ねると妊娠が難しくなる理由
卵子は生まれたときに作られて、その後新しく作られることはありません。年齢を重ねることで卵子の数は減少し、卵子自体も老化してしまいます。古くなってしまった卵子はカタチが悪く張りもなくなってしまうため、受精が難しくなります。
さらに、ダウン症などの障害を持った子どもが産まれる確率は年齢を重ねるにつれて上がってしまい、30歳に比べて40歳では10倍近く確率が上がってしまうのです。
卵子凍結のメリットとデメリット
医療技術には必ずメリットとデメリットが存在し、卵子凍結も例外ではありません。正しい情報を理解したうえで、自分の価値観や状況に合わせて判断することが重要です。卵子凍結のメリットとデメリットについて解説します。
卵子凍結のメリット
卵子凍結の最大のメリットは、若いときの卵子の質を保ったまま将来の妊娠に備えられることです。女性の社会進出が進む現代において、キャリア形成と出産のタイミングを調整する選択肢として重要な意味を持ちます。病気治療による生殖機能への影響を回避する医学的メリットもあります。心理的な安心感も大きく、人生設計に余裕を持てる可能性があります。
30歳で凍結した卵子は、40歳で使用しても30歳時の妊娠率を維持できる可能性があります。がん治療前に卵子を凍結することで、治療後も妊娠の可能性を残すことができます。早期閉経のリスクがある女性にとっては、将来への備えとして安心材料になる可能性があります。
卵子凍結のデメリットとリスク
卵子凍結には高額な費用、身体的負担、そして100%の成功を保証されないリスクがあります。医療行為には必ずリスクが伴い、卵子凍結も例外ではありません。技術的な限界や個人差により、期待通りの結果が得られない場合もあります。リスクを事前に理解しておくことが、後悔のない選択につながります。経済的負担も長期間続くため、計画的な検討が必要です。
以下の記事では、卵子凍結に伴う5つの主なデメリットを詳しく解説しています。リスクを最小限に抑えるための工夫や、メリットとのバランスについても触れているので、判断材料としてぜひ参考にしてください。
>>卵子凍結の5つのデメリットとは?リスクを最小限にする方法やメリットについても詳しく解説
卵子凍結の流れ

卵子凍結を検討している方に対して、まずは診察や検査などで卵巣機能やホルモン値、卵子の数などを調べます。卵子凍結が問題ないと判断されたら、実際の処置に進みます。一般的な卵子凍結の流れは以下の3つです。
- 排卵誘発
- 採卵手術
- 凍結保存
状態の良い卵子を採取するために、内服薬や注射薬などを使って排卵を誘発させ、複数の卵子を育てます。採卵手術では、腟から超音波機器を挿入して、エコー画像を見ながら卵巣内の卵胞(卵子が入っている袋)に専用の針を刺して、卵胞液とともに卵子を吸引して採卵します。
採卵手術にかかる時間は10分〜15分程度です。採卵した卵子は、ガラス化法という方法を用いて、-196℃の液体窒素に入れて凍結保存します。
当院での具体的な治療の流れは以下のページに記載しています。相模原市を中心に、関東にお住まいで卵子凍結に関心がある方はぜひチェックしてみてください。
>>当院での卵子凍結の流れ
卵子凍結は痛みを伴う処置もある
卵子凍結には痛みを伴う処置がいくつかあります。採血や排卵誘発剤のために注射を複数回行いますし、検査や採卵のために腟にチューブを挿入したり、卵巣へ針を刺したりします。排卵誘発剤の副作用や採卵時の卵巣刺激に伴う卵巣の腫れなどが原因で、下腹部の痛みが出る場合もあるので注意が必要です。卵子凍結には痛みを伴う処置があるため、不安な方は事前に医師へ確認しておきましょう。卵子凍結に関する痛みに関してよりくわしく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
>>卵子凍結の痛みはどのくらい?痛いと感じるタイミングや対処法を解説

卵子凍結は保険適用外の処置のため、全額自己負担です。クリニックや処置内容によって差はありますが、診察から採卵・凍結まで25〜75万円程度かかります。具体的な項目は以下のとおりです。
- 問診・スクリーニング検査
- AMH検査
- 超音波検査
- 採卵費用
- 凍結費用
- 凍結卵子の保存料
このほかにも、卵子を使うときに融解する費用や体外受精にかかる費用などもあります。患者さま一人一人の状況を確認したうえで、必要な検査・処置だけを行います。
当院で卵子凍結をする場合の費用は、以下のページにて具体的に表でまとめているため、検討中の方は1つの例としてぜひお読みいただければと思います。
>>当院の卵子凍結の料金表
卵子凍結は保険適用外
卵子凍結は保険適用外の治療です。しかし自治体によっては、卵子凍結に関わる費用に関して一定額補助してくれる地域もあります。お住まいの市役所の窓口や不妊治療をしているクリニックへご相談ください。
卵子凍結はまだ保険適用外ですが、2022年4月から不妊治療に対して一部保険適用が認められるようにもなりました。回数制限や年齢制限もありますので、くわしく知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。
卵子凍結の費用については以下の記事でも詳しく解説しています。気になる方はチェックしてみてください。
>>卵子凍結はいくらかかる?費用で諦める前に知りたい助成金・補助金や手続きを徹底解説
卵子凍結にはデメリットやリスクもあるので注意が必要
検査や採卵時には外科的な処置を行うため、麻酔の副作用や出血、腹腔内感染、腸などの臓器を損傷してしまうリスクがあります。自然分娩に比べて生殖補助医療の場合、周産期合併症(早産・低体重児・帝王切開・胎盤早期剥離・妊娠高血圧症候群・妊娠糖尿病など)の発生リスクが上がるという報告があります。
全額自己負担のため費用が高額ですが、卵子凍結をしたからといって将来必ず妊娠できるわけではありません。卵子凍結にはデメリットやリスクもあるので、注意が必要です。
よくある質問|卵子凍結の疑問を解決
卵子凍結について多くの女性が抱く疑問や不安を正しい情報で解決することが、適切な判断につながります。卵子凍結について、以下のよくある質問にお答えします。
- 何個の卵子を凍結すれば安心?
- 凍結した卵子はいつまで保存できる?
何個の卵子を凍結すれば安心?
一般的に10〜20個程度の良質な卵子の凍結が推奨されますが、年齢や個人の状況により異なります。凍結から妊娠まで複数の段階で一定の割合で失われるため、最終的に妊娠に至るには複数個の卵子が必要です。複数回の妊娠を希望する場合はより多くの卵子が必要になります。ただし、採卵には身体的負担と費用がかかるため、バランスを考えた個数設定が重要です。
30歳で凍結した場合、10個の卵子から約2〜3個の健康な胚ができる可能性があります。一人の出産を目指す場合は10〜15個、複数回の出産を希望する場合は20個以上が目安とされています。ただし、個人の卵子の質により大きく変動するため、AMH(抗ミュラー管ホルモン)値や過去の採卵実績なども参考にします
35歳以上の場合は、より多くの卵子が必要になる傾向があります。年齢と将来の希望を考慮して、医師と相談しながら適切な個数を決めることが重要です。
凍結した卵子はいつまで保存できる?
技術的には長期保存が可能ですが、日本では法的・倫理的な理由により保存期間に制限があります。ガラス化凍結技術により理論上は半永久的な保存が可能ですが、各国の法律や医療倫理により実際の保存期間は制限されています。保存費用や施設の継続性、女性の年齢による出産リスクの増加なども考慮する必要があります。
長期保存にはさまざまなリスクも伴うため、適切な期間設定が重要です。日本では多くのクリニックで10年程度が上限とされており、その後は廃棄または期間延長の判断が必要です。海外では15年や制限なしの国もありますが、実際の出産年齢を考えると現実的な使用期間は限られます。
保存期間中は年間5〜10万円程度の保存費用がかかり、10年間で総額50〜100万円の費用が必要です。クリニックの閉院や機器の故障などの万が一のリスクも考慮する必要があります。
まとめ|卵子凍結を検討している方は産婦人科に相談しよう
卵子凍結は、さまざまな理由で現在は妊娠を希望していないが、将来的に出産を望む女性にとって妊娠率を下げないための有効な手段の一つです。ただし、保険適用外のため治療には高額な費用がかかりますし、痛みや副作用などのデメリットもあります。卵子凍結を悩んでいる方は、まずは一度専門の産婦人科へ相談してください。
ソフィアレディースクリニックでも患者さんへわかりやすくご説明し、ご納得いただいたうえで最適な治療法をご提案いたしますのでお気軽にご相談ください。
参考文献
D Dicker, J A Goldman, J Ashkenazi, D Feldberg, M Shelef, T Levy. Age and pregnancy rates in in vitro fertilization. J In Vitro Fert Embryo Transf, 1991, 8(3), p.141-144.